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とぼとぼ歩きの実践|速さ・歩幅・歩数、そして『安静にしない』理由

大黒 充晴(院長/柔道整復師・臨床23年)

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※本ノートは治療家・医療従事者向けの専門的な覚え書きです。一般の方の自己判断・施術の代替を意図したものではありません。引用文献はエビデンス確認用であり、当院の施術効果を保証するものではありません。

はじめに——歩き方の「中身」から「実践」へ

第11号では、歩き方そのもの——蹴るのでなく踏む、足からでなく体から、膝は軽く曲げた楽な肢位で、二本線で——を書いた。

ここでは、それを実際にどう指導するか、速さ・歩幅・歩数の目安を具体的に。そして当院のもう一つの柱、**「できるだけ安静にしない」**という考え方を書く。

まずは「何も意識しない」——やらない努力としての歩き

正直に言うと、第11号に書いた歩き方を意識してやろうとすると、けっこう難しい。だから最初は、とにかく何も意識しないことから始めてもらう。

リラックスして、散歩感覚で歩く。これも第9号第4号で書いた**「やらない努力」だ。世間で「良い」と言われている歩き方(胸を張る・大股・かかとから)を、あえてやらない**。力を抜いて、何も意識せずに歩く——ここがスタートになる。

速さ・歩幅

数値の前に、この二つだけは患者さんによく言う。

  • 速さ=速くより、ゆっくり。 速くなると、どうしても蹴ろうとして蹴ってしまう。大事なのは前足で踏んで全身に荷重をかけることなので、速さはむしろ要らない。どちらかと言えば、ゆっくりの方がいい。
  • 歩幅=大きいより、小股。 大股で歩くと、どうしても足から先に出る「モデル歩き」になってしまう。だから「小股で歩いてください」とよく伝える。

「速く・大股で」がモデル歩きの方向、「ゆっくり・小股で」がとぼとぼ歩きの方向だ。

量と頻度——歩数の目安

歩数については、段階で考えている。

  • まずは1日トータルで5000歩以上。 歩き続けると、だいたい40分くらいになる。ここで大事なのは、「ウォーキングとして5000歩」ではなく、1日の合計として5000歩でいい、ということ。家事や移動も含めての合計だ。
  • 歩ける日・歩けない日があるので、1週間の平均で考える。 1週間の平均で1日5000歩、つまり週で約35000歩を最初の目標にしてもらう。万歩計やアプリで測ると続けやすい。
  • できれば、1日7000〜8000歩が望ましいライン。 もちろんそれ以上歩ける人は、どんどん歩いてもらっていい。
  • ちなみに私自身は、週5万歩(1日に直すと7000歩強)を目標に、アプリで測りながら歩いている。だいたい週5〜6万歩が目安だ。

数字はあくまで目安で、個人差がある。まずは「合計5000歩」から、無理なく積み上げてもらう。

安静を、すすめない

歩き方と並ぶ、もう一つの柱がこれだ。

痛みが出たとき——膝でも腰でも——世間には「安静にする」という発想がある。だが当院は、できるだけ安静にしない。これは非常に重要な考え方なので、きちんと書いておく。

エビデンスの補足(不動による筋力低下)

動かさないと、筋力は驚くほど速く落ちる。

  • 健常な若年者でも、脚をギプスで固定すると5日間で大腿四頭筋の筋力が約9%低下したという報告がある(Wall et al., 2014)。
  • 片脚を不動にした研究を集めた解析では、**1週間で平均13%前後(おおむね7〜13%)**の筋力低下が示されている(Preobrazenski et al., 2023)。
  • つまり、「1週間動かないと筋力が約10%落ちる」という目安は、文献的にも妥当だ。

ポイントが二つある。(1) これは“筋力”の低下で、筋肉の太さ(筋量)の減少よりずっと速い——初期は神経・筋の働きが鈍るためだ。(2) 低下は最初の数日に集中する(非線形)。だからこそ、「動けない間も、できる範囲で動かす・力を入れる」ことが、その後の回復を大きく左右する。

私がいつも言うのは、弱ったものを、もう一度強くするほど大変なことはない、ということ。だから、できるだけ弱らせない。動かなければ動かない分だけ、筋力も体も弱っていく。それを後から取り戻すのは、本当に骨が折れる。

だから患者さんには、こう伝えている。歩いて痛みがどんどん強くなる、あるいは痛くて歩けない——それ以外は、歩いてくださいと。歩いて痛みがあっても、その痛みが強くならないのであれば、歩いてもらう。これは第10号で書いた「マイナスをゼロに戻す」戦いとも地続きだ。安静で弱らせてしまうと、マイナスがさらに深くなる。

注意点——どこで線を引くか

ただし、「動かせばいい」と一律に言っているのではない。線の引き方を間違えないでほしい。

  • 歩くと痛みがどんどん強くなるときは、いったん引く。
  • 激痛で歩けないときは、無理をしない。
  • 骨折・脱臼などの急性外傷後や、医師から安静を指示されているときは、その指示が優先。

本ノートで言う「安静にしない」は、あくまで一般的な不調——慢性的な腰痛・肩こり・しびれなどで、つい「動かない方がいい」と思い込んで弱っていくケースに対しての話だ。受診の目安を超える痛み・しびれ・発熱・外傷があるときは、医療機関に相談してほしい。

まとめ

  • 最初は何も意識せず、リラックスして散歩感覚で(やらない努力)。
  • 速くよりゆっくり、大股より小股
  • 歩数はまず1日合計5000歩(週平均5000歩=週35000歩)→ できれば7000〜8000歩
  • できるだけ安静にしない。不動で筋力は速く落ちる。痛みが強くならない限りは歩く。ただし急性外傷・医師の安静指示は別。

歩き方の「中身」は第11号、靴の選び方と「歪みは歩いて整える」という枠組みは第8号に書いた。あわせて読んでほしい。

補足

本ノートのうち、不動による筋力低下のデータは一般的な研究知見だが、歩数の目安や「安静にしない」という方針は私の臨床上の考え方(私見)であり、すべての症例・すべての方に当てはまると主張するものではない。歩行・運動量の合う合わないには個人差があり、急性外傷後や医師の安静指示があるときはそれに従ってほしい。改善の感じ方には個人差がある。同業の参考になれば幸いだ。


本ノートは治療家・専門家向けの覚え書きであり、特定疾患の診断・治療や、当院施術の効果を保証するものではありません。

大黒 充晴

大黒 充晴院長/柔道整復師(国家資格)

枚方市・大黒整骨院 院長。臨床23年・延べ5万人以上の施術。電気や温熱の機械を使わず、関節の数mmのズレとファシア(筋膜を含む結合組織)への手技を軸に施術する。

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