歪みは日々生まれ、歩いて整える|歩行指導と靴選びの考え方
大黒 充晴(院長/柔道整復師・臨床23年)
はじめに——負のループの土台にある「歪み」
第7号で、体が悪くなる順番(負のループ)を書いた。その一番下、土台のところに私が置いているのが**「歪み」**だ。今回は、この歪みをどう捉え、患者さんにどう歩いてもらうかを書く。以下は私の臨床上の考え方(私見)である。
歪みは「何かをしたから」ではなく、「日々」生まれる
歪みについて、私が強く持っている考え方がある。それは、歪みは何かをしたからできるものではなく、何もしなくても日々生まれていく、ということだ。老化現象と同じだと思っている。人は日々、少しずつ下り坂を進んでいる。歪みも、それと同じように毎日少しずつ溜まっていく。
エビデンスの補足(どこまでが裏づけのある話か)
「歪みが日々生まれ、歩行で補正される」という枠組み自体は、私(院長)の身体観であって、科学的に証明された定説ではありません。ただし、その背景にある次の点には裏づけがあります。
- 身体機能は若いうちにピークを迎え、あとは下っていく。 全身持久力の指標であるVO₂maxは、運動習慣のない成人ではおおむね25〜30歳以降に1年あたり約1%(10年で約10%)ずつ低下していくと報告されています。筋肉量・筋力も30歳前後から10年で3〜5%ほど減り始め、50歳以降はさらに加速します。「成長が止まると、あとは少しずつ下り坂」という方向性は、その通りと言えます。
- 細胞は日々ダメージを受け、絶えず修復している。 ヒトの細胞は1日あたり推定で1万〜数万個のDNA損傷を受け、それを修復し続けています。また、異常な細胞を免疫が監視・排除する「がん免疫監視(immunosurveillance/免疫編集)」は、1909年にEhrlichが提唱して以来、確立した概念です。つまり「日々壊れて、日々直している」という大枠は事実です。
- ただし「1日◯個のがん細胞」といった具体的な数字(よく言われる5000個など)には、確かな出典が見当たりません。 大枠は正しくても、具体数の断定は避けるべき、というのが私の立場です。
※ですので本ノートでは、「日々ダメージが生じ、体はそれを補正し続けている」という確かな大枠を比喩として借り、「歪みも同じように日々生まれ、日々補正が要る」と説明しています。比喩であることをご承知おきください。
人は「歩く」ことで、歪みを補正してきた
では、日々生まれる歪みを、人は何で補正してきたのか。私の考えでは、それが**「歩く」**ということだ。免疫が日々の異常を片づけているように、人は歩くことで日々の歪みを整えている——そういう生き物だと捉えている。
人間という動物の設計に一番合っているのは、もともと暗くなったら寝て、明るくなったら起き、一日中歩いて食べ物を探すような生活だったはずだ。そこには、かなりの「歩く量」が前提として組み込まれている。歩きながら、人は自然に体を補正してきた。
効率化社会で、歩かなくなる
ところが今の世の中は、どんどん効率的になり、歩く量が激減している。歩かなくなれば、その分だけ歪みは抜けにくくなり、強く溜まっていく。若い人でも肩こりや腰痛を抱える背景には、こうした「歩かなくなった社会」が必ずあると私は感じている。
だからこそ、歪みは日々補正していかないといけない。その第一の方法が、歩くことだ。
歩き方——「モデル歩き」は、私の考えでは最適ではない
ここが今回、特に伝えたい点だ。世間で言う**「きれいな歩き方」=大股で、かかとから接地して、良い姿勢で**——いわゆるモデル歩きは、歪みを整えるという目的から見ると、私の考えでは最適ではない。
きれいに歩いたからといって、体に一番いいわけでも、健康なわけでもない。けれど、いつの間にか「きれいな歩き方=健康」が常識になってしまっている。私はここに違和感を持っている。
歪みを整えるうえで一番大事なのは、何も意識しないことだ。一番リラックスして、何も意識せず歩く。どちらかと言えば、速くよりもゆっくりの方がいい。患者さんには「とぼとぼ歩いてください」「ダラダラでいいです」「散歩感覚で」とよく言う。力を抜いた、ゆっくりの歩きの方が、歪みは整えられる——これが私の強い考え方だ。これは第4号で書いた「やらない努力/唯一すすめるのはリラックスした散歩」とも、そのままつながる。
※繰り返しになりますが、歩き方についてのこの考え方は私の臨床上の私見であり、科学的に証明された定説ではありません。
靴——硬い地面から足を守り、足本来の機能を取り戻す
歩くなら、靴も非常に重要になる。人間の体は本来、土や芝生、自然の地面を歩くように設計されている。それに対して、今の整備されたアスファルトはクッション性が低く、体にとっては硬い。だから、足を守る靴が要る。
私が患者さんにすすめている順番はこうだ。
- まずはウォーキングシューズ。 手に入りやすく、導入しやすい。メーカーならニューバランスかアシックスのウォーキングシューズ。ニューバランスなら、コスパで言えば880が一番おすすめだ。もっと上のモデルもあるが、一番大事なのは費用対効果だと思っている。
- 慣れてきたら、ベアフットシューズへ。 本来の人間としての歩き方、足本来の機能を取り戻すには、最近広まってきたベアフットシューズがいい。ただしこれは足を鍛える系の靴で、履き慣れていない人は足が痛くなったり疲れやすかったりする。だから、いきなりではなく段階的に——まずウォーキングシューズで歩き、慣れてからベアフットへ、という順がいい。
ベアフットシューズが足の機能、ひいては全身(肩こり・腰痛まで)にどう関わるかは、別の記事に詳しく書いた。あわせて読んでほしい——ベアフットシューズは何がいいのか(不調を整えるブログ)。
治療との接続
とはいえ、効率化された今の生活の中で、歩くだけで歪みを完全に補正しきるのは、なかなか難しい。自分だけでは戻しきれない歪みがあるからこそ、私たちのような関節ファシア整体による治療がある、と私は位置づけている。治療で土台のズレと硬結を整え、日々は歩いて補正する——この両輪だ。
補足
本ノートは私の臨床上の考え方であり、すべての症例・すべての方に当てはまると主張するものではない。歩行や靴の合う・合わないには個人差があり、痛みが強いとき・既往があるときは無理をせず、必要に応じて医療機関に相談してほしい。改善の感じ方には個人差がある。同業の参考になれば幸いだ。
本ノートは治療家・専門家向けの覚え書きであり、特定疾患の診断・治療や、当院施術の効果を保証するものではありません。

大黒 充晴院長/柔道整復師(国家資格)
枚方市・大黒整骨院 院長。臨床23年・延べ5万人以上の施術。電気や温熱の機械を使わず、関節の数mmのズレとファシア(筋膜を含む結合組織)への手技を軸に施術する。