病態名と傷病名は、別の体系である|椎間板性の腰痛を「捻挫」で受け取らない
腰痛のうち、丁寧に診れば名前がつく層がある。筋膜性・椎間関節性・仙腸関節性・椎間板性。このうち3つは私たちの傷病名の枠に置けるのに、椎間板性だけが置けない。技術の問題ではなく、外傷の体系と変性の病態という枠組みの違いである。では椎間板のどこが傷んでいるのか、痛みはどこから出ているのか。線維輪の神経支配と好発高位まで、一次資料でたどる。
腰痛のうち、丁寧に診れば名前のつく層がある。筋膜性・椎間関節性・仙腸関節性・椎間板性——「腰痛の85%は原因不明」は本当かで書いた、従来なら「原因不明」に放り込まれていた57%の中身だ。この4つを私たちの傷病名の枠に置いてみると、面白いことが起きる。3つは置けるのに、1つだけ置けない。 その1つが、椎間板性である。
4つのうち、3つは乗って、1つは乗らない
まず並べてみる。
| 病態の名前 | 柔整の傷病名に置けるか |
|---|---|
| 筋膜性 | 挫傷の枠に近い |
| 椎間関節性 | 捻挫の枠に近い |
| 仙腸関節性 | 捻挫の枠に近い |
| 椎間板性 | 置けるものが無い |
⚠️ 先に断っておく。この表は「どの傷病名を当てればよいか」の対応表ではない。 そういう読み方をした瞬間に、この話は療養費の書き方の話になってしまう。当院は完全自費なので私自身は請求と無縁だが、そこは間違えたくない。
この表で言いたいのは逆で、病態の名前と、傷病名は、そもそも別の体系だということだ。近い、とは書いたが、イコールではない。そして椎間板性に至っては、近いものすら無い。
なぜ椎間板性だけが乗らないのか
理由は単純で、土台にしている考え方が違うからだ。
柔道整復師の傷病名は、骨折・脱臼・打撲・捻挫(および挫傷)——つまり外傷の体系でできている。外から力が加わって組織が傷んだ、という筋書きが前提にある。
一方、椎間板性腰痛の本体は椎間板の内部が変性していく過程(internal disc disruption)である。ある日ひねったから始まった、という一撃では説明しない。時間をかけて内側から進む話だ。
だから乗らない。技術の問題でも、知識の問題でもなく、枠組みが違う。
ついでに書いておくと、椎間板ヘルニアも私たちの傷病名ではない。あれは医師が画像と症状から下す診断名だ。ここを混同すると、越えてはいけない線を越える。
では、椎間板のどこが傷んでいるのか
ここからが本題だ。「椎間板が痛みを出している」と言うとき、椎間板のどこが痛みを出しているのか。
学生時代、椎間板には神経が無いと習った方も多いと思う。半分正しい。
健康な椎間板では、神経が入っているのは線維輪の外側3分の1だけである。内側3分の1と髄核には神経が無い。つまり、本来そこは痛みを出せない場所だ。
ところが、痛んでいる椎間板では話が変わる。
- Freemont AJ, Peacock TE, Goupille P, Hoyland JA, O'Brien J, Jayson MI. Nerve ingrowth into diseased intervertebral disc in chronic back pain. Lancet. 1997;350(9072):178-181. PMID: 9250186
- 椎間板の標本80検体(うち慢性腰痛の患者から46、対照が34)を免疫組織化学で調べた研究。
- 対照では、神経は線維輪の外側〜中3分の1に限局していた。教科書どおりである。
- ところが**慢性腰痛の患者では、神経が線維輪の内側3分の1まで伸びていたものが21検体(46%)、髄核にまで達していたものが10検体(22%)**あった。
- しかもそれらはサブスタンスP(痛みの伝達に関わる物質)を発現する神経線維だった。
つまりこういうことになる。
痛みを出せないはずの場所に神経が伸び込んで、痛みを出せる場所に変わってしまっている。
損傷の実体としては、**線維輪の亀裂(annular fissure、特に内側から外側へ抜ける放射状の断裂)**が起点になる。その亀裂に沿って、神経と血管が内側へ入り込んでいく。だから「椎間板のどこを損傷しているのか」という問いへの答えは、髄核が飛び出したかどうかではなく、線維輪が裂けているかどうか、ということになる。ヘルニアとは別の話だ。
近年はもう一段、椎体側の終板(endplate)も痛みの発生源として注目されている。終板の損傷とModic変化、そこを支配する椎体内の神経(basivertebral nerve)が関わるという見方で、椎間板の変性としばしば連動する。⚠️ ただしこちらはまだ確立ではなく、研究が動いている領域なので、私は断定的には使わない。
この理解が、実務で何を変えるか
3つある。
ひとつ目。「腰部捻挫」に何でも入れない。 名前が無いものに名前を当てて埋めると、記録が濁るだけでなく、自分の見立てまで濁る。「捻挫として扱った」という記録は、次に見返したときに「外傷だったのだ」と自分に思い込ませる。名前が無いなら、無いまま置いておくほうがいい。
ふたつ目。外傷でないものを、外傷として扱わない。 変性由来のものに、急性外傷の見立てと手当てを当てると、話が合わなくなる。ここは痛みの真因は「動いていないところ」で書いた見方と地続きで、発症はスタートではないという一点に尽きる。
みっつ目。「痛みを出せる場所が変わりうる」と知っておく。 神経が伸び込むという現象は、痛みの出どころが固定ではないことを意味する。同じ話は末梢神経の側でも起きていて、シビレは「圧迫」だけでは説明できない——異所性発火に整理した。組織は正常でも痛みは出るし、痛みを出さなかった場所が出すようになる。
なお、屈曲・座位で増悪すれば椎間板性、伸展・回旋で増悪すれば椎間関節性——という傾向は確かに言われる。⚠️ ただし、これを見立ての入口にしない。 答えを先に決めると、その範囲の外にある本当の原因を取りこぼす(診断哲学——局所仮説を捨て、全体を感じる)。私はこの種の知識を、入口ではなく、動診で確かめたあとの答え合わせに使っている。
高位——結局、下の2つに集まる
もうひとつ、実務に効く事実がある。椎間板も椎間関節も、集まるのはL4/5とL5/S1である。
椎間板ヘルニアについては、日本のガイドラインが引いている数字がはっきりしている。
- Shiga Y. The Essence of Clinical Practice Guidelines for Lumbar Disc Herniation, 2021: 1. Epidemiology and Natural Course. Spine Surg Relat Res. 2022;6(4):319-321.
- L4/5=50.6%、L5/S1=40.8%、L3/4=6.4%、L2/3=1.8%、L1/2=0.4%。下の2つで9割を超える。
そして、ここが臨床で使えるところだ。年齢が上がるほど、高位が上に上がっていく。
| 高位 | ヘルニアが起きた人の平均年齢 |
|---|---|
| L5/S1 | 44.1歳 |
| L4/5 | 49.5歳 |
| L3/4 | 59.5歳 |
| L2/3 | 59.6歳 |
つまり、若い方なら下位腰椎、年配の方なら上位腰椎も視野に入れるということになる。もちろんこれは傾向であって、その人がそうだという話ではない。
椎間関節についても、変性が最も強く出て症状の報告も多いのはL4/5とL5/S1である。ただし椎間関節性腰痛は、有病率の報告自体が診断基準によって15〜45%と大きくばらつくため、高位ごとの割合を数字で語るのは今のところ無理がある。
数字の扱いについて、正直に書いておく
山口の研究(85%のノート参照)は、57%の内訳——筋膜性が何%、椎間関節性が何%——を報告していない。3つのグループの人数までしか出していない。
ところが二次的な要約やまとめ記事には、それらしい内訳の数字が流通している。私も一度それを目にして使いかけたが、原著に当たると裏が取れなかったので落とした。
これは自戒として書いておく。孫引きの数字は、権威づけに見えて、いちばん足元を崩す。 出どころを一度もたどっていない数字を、患者さんの前や後進の前で使わない。数字を出すなら、原著まで戻る。戻れないなら、出さない。
越えない線
- 診断は医師の役割。 私たちが立てるのは施術のための見立てであって、診断名ではない。
- 傷病名の話を、請求の話にしない。 このノートは見立ての整理であって、書類の書き方の指南ではない。
- 椎間板の中身を私たちが変えられる、とは言わない。 線維輪の亀裂を閉じる、神経の伸び込みを戻す——そういう主張はしない(※変化の感じ方には個人差があります)。私たちが手をつけられるのは、その周りで動かなくなっている場所のほうだ。
- red flags が先。 進行する筋力低下、排尿排便の異常、サドル型の感覚障害、発熱、体重減少、夜間の激しい痛み、がんの既往(施術しないという技術)。
※このノートのうち、傷病名の体系についての整理と実務への落とし込みは、**私の考え方(私見)**である。引用した研究の内容そのものとは分けて読んでほしい。
まとめ
- 名前がついた4つのうち、筋膜性・椎間関節性・仙腸関節性は挫傷/捻挫の枠に近いが、椎間板性は置けるものが無い。
- 理由は枠組みの違い。柔整の傷病名は外傷の体系、椎間板性の本体は変性。椎間板ヘルニアは医師の診断名で、私たちの傷病名ではない。
- 健康な椎間板は、線維輪の外側3分の1にしか神経が無い。 痛んだ椎間板では、内側3分の1へ46%、髄核へ22%まで神経が伸び込んでいた(Freemont 1997・Lancet)。
- 損傷の実体は線維輪の亀裂で、そこを通って神経と血管が入り込む。ヘルニア(髄核の脱出)とは別の話。終板・Modic変化の関与は研究途上。
- 高位はL4/5とL5/S1で9割超。しかも年齢が上がるほど高位も上がる(L5/S1が44.1歳、L2/3が59.6歳)。
- ⚠️ 名前が無いものに名前を当てて埋めない。記録が濁ると、見立ても濁る。
- ⚠️ 孫引きの数字を使わない。 原著に戻れないなら出さない。

大黒 充晴院長/柔道整復師(国家資格)
枚方市・大黒整骨院 院長。臨床23年・延べ5万人以上の施術。電気や温熱の機械を使わず、関節の数mmのズレとファシア(筋膜を含む結合組織)への手技を軸に施術する。