治療家・専門家向け

切れた筋肉や靭帯は、元に戻らないのか|「つながる」と「元どおり」を分けて調べてみました

「切れたら、もう元には戻らないんですよね」——先生方も、よく聞かれませんか。私はこれに、長いあいだうまく答えられずにいました。「つながる」と「元どおり」を分けて調べ直してみたら、けっこう驚くことが出てきたので共有させてください。足首の靭帯・肩の腱板・膝の半月板・筋肉・側副靭帯・前十字靭帯・アキレス腱を痛めている方の多い順に。そして、瘢痕を作らず本当に元どおりに戻るのは骨だけだったこと、腱板断裂の3人に2人が無症状なら残りの1人はなぜ痛いのか、まで。

大黒 充晴(院長/柔道整復師・臨床23年)
※本ノートは治療家・医療従事者向けの専門的な覚え書きです。一般の方の自己判断・施術の代替を意図したものではありません。引用文献はエビデンス確認用であり、当院の施術効果を保証するものではありません。

🟢 この記事のやさしい結論(30秒でわかる)

  • 「切れたら元に戻らないんですよね?」——この問いに、私はずっとうまく答えられずにいました。「つながる」と「元どおり」を分けてみたら、だいぶスッキリしました。
  • 靭帯瘢痕でつながる。でもその瘢痕、正常な靭帯より弱くて・大きくて・伸びやすいんです(コラーゲンの種類も架橋も違う)。「つながるけど、同じ組織じゃない」。足首の捻挫は大半が回復しますが、20〜30%は不安定感が残る
  • いちばん驚いたのが肩の腱板膝の半月板。切れていても痛くない人のほうが多い。腱板断裂の約3分の2は無症状、半月板断裂のある人の61%は直近1か月に痛みなし。「つながらなくても、機能は戻せる」らしくて、保存と手術で成績が変わらない比較試験まで出ていました。
  • 筋肉は例外で、衛星細胞から筋線維そのものが再生します。ただし瘢痕も同時にできる。
  • 前十字靭帯、「自然には治らない」と習いましたよね。ところがリハビリのみで約半数に2年後MRIで連続性(KANON試験の二次解析・2023年)という報告が出ていました。アキレス腱の完全断裂も、手術と保存で再断裂率の差が小さい(2.3% vs 3.9%)。
  • 「戻る力」には順位がありました。瘢痕を作らず本当に元どおりに戻るのは骨だけ。末梢神経は遅くて不完全、軟骨はほぼ戻らない(1743年のハンターの一文が250年ひっくり返っていない)、腱板の完全断裂はいちばん厳しい部類(端が縮む+血行+付着部の4層構造が作り直せない)。そして「戻らない」の理由が組織ごとに全然ちがう。
  • 腱板の3人に2人が無症状なら、残りの1人はなぜ痛いのか。断裂の大きさ・退縮・骨頭の上方化・筋萎縮——どれも痛みと相関しませんでした(393名・p>0.25)。分かれていたのは①拡大しているか ②動かし方が変わっているか(症状側は三角筋が減り僧帽筋が増える=痛い関節を使わず別の関節で動かしている)③全身と神経の側。⚠️ただし代償が原因か結果かは未決着。
  • 全部に共通していたのが、固定一辺倒より「早めに機能的に動かす」ほうが成績がよいという方向。これは自分がやっていることと重なって、正直ほっとしました。
  • ⚠️ 断裂音・体重をかけられない・変形・強い腫れ・不安定感があるときは、施術より先に医療機関。画像と診断は医師の役割で、手術か保存かも医師の領域です。

「一回切れたら、もう元には戻らないんですよね」

先生方も、よく聞かれませんか。捻挫、肉離れ、病院で「腱板が切れてます」と言われた方。私はこの問いに、長いあいだ歯切れの悪い答え方をしていました。「戻ります」と言えば嘘になるし、「戻りません」と言えば、その方は動く気力まで失ってしまう。

「つながる」と「元どおり」を分けて調べ直したら、思っていたのと違うことがいくつも出てきたので、共有させてください。痛めている方の多い順に並べています。

まず、言葉を2つに分けてみました

「元に戻る」って、2つの意味が混ざってるんですよね。

  1. つながるか——切れたところがくっついて、また力を伝える仕事ができるようになるか
  2. 元どおりになるか——切れる前と同じ組織・同じ強さ・同じ伸びにくさに戻るか

これ、別の問いでした。多くの損傷は1が「はい」で、2が「いいえ、でも機能は戻せる」。そして腱板と半月板みたいに、1が「いいえ」でも機能は戻る組織もありました。

その前に、靭帯と腱に共通する土台を1本だけ置かせてください。

  • Hildebrand KA, Frank CB. Scar formation and ligament healing. Can J Surg. 1998;41(6):425-429. PMID: 9854530
    • 靭帯の瘢痕は、正常な靭帯より「弱く、大きく、クリープ(持続荷重で伸びる)が大きい」
    • 組成も違う。マイナーなコラーゲン(III型・V型・VI型)が増え、コラーゲンの架橋が減り、グリコサミノグリカンが増える。

ここが核心だなと思いました。靭帯損傷の多くは「つながる」。でも、つながった組織は「同じ靭帯」じゃない。強さも伸びにくさも劣る組織が、もとの仕事を引き受けている。だから「そのあとの使い方」が効いてくるんだろうな、と。

1. 足首の靭帯(捻挫)——大半は回復。でも2〜3割が不安定を残す

うちでいちばん多い外傷、足首の内反捻挫です。

  • Guillo S, Bauer T, Lee JW, et al. Consensus in chronic ankle instability: aetiology, assessment, surgical indications and place for arthroscopy. Orthop Traumatol Surg Res. 2013;99(8 Suppl):S411-S419. PMID: 24268842
    • 大半の足関節捻挫は非手術治療で完全に回復するが、20〜30%は慢性足関節不安定症に移行する」。

管理の方向についても、比較研究がありました。

  • Kerkhoffs GM, Rowe BH, Assendelft WJ, Kelly KD, Struijs PA, van Dijk CN. Immobilisation and functional treatment for acute lateral ankle ligament injuries in adults. Cochrane Database Syst Rev.(2002年版。2013年に更新のため撤回扱い=PMID: 23543522
    • 固定と機能的治療(早期に動かす)を比較して、機能的治療のほうが、スポーツ復帰の頻度・復帰までの日数・持続する腫れ・患者満足のどれでも優れていた

足首は、「つながる」は大半で「はい」。分かれるのは、つながったあと——そう読めました。「捻挫ぐせ」で来られる方の2〜3割という数字、体感と近くないですか。

2. 肩の腱板——切れていても、3人に2人は無症状

これ、いちばん驚いた話です。日本の一般住民を調べた研究が2つありました。

  • Yamamoto A, Takagishi K, Osawa T, et al. Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population. J Shoulder Elbow Surg. 2010;19(1):116-120. PMID: 19540777

    • 一般住民683名(1,366肩・平均57.9歳)。腱板断裂は20.7%の肩にあった。症状のある人の36%、症状のない人でも16.9%に断裂。有病率は年齢とともに上昇。
  • Minagawa H, Yamamoto N, Abe H, et al. Prevalence of symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears in the general population: From mass-screening in one village. J Orthop. 2013;10(1):8-12. PMID: 24403741

    • 一村の住民664名を超音波で検診。22.1%に腱板の完全断裂。年代別で50代10.7%・60代15.2%・70代26.5%・80代以上36.6%。しかも断裂のうち約3分の2(65.3%)は無症状

腱板の完全断裂って、切れた腱が縮むので、靭帯みたいに瘢痕で自然に橋渡しされるのは期待しにくいですよね。「つながらない」組織の代表です。じゃあ切れたままだと悪くなる一方なのか——ここも気になったので調べました。

  • Keener JD, Galatz LM, Teefey SA, et al. A prospective evaluation of survivorship of asymptomatic degenerative rotator cuff tears. J Bone Joint Surg Am. 2015;97(2):89-98. PMID: 25609434
    • 無症状の腱板断裂を持つ人など224名を中央値5.1年追跡。完全断裂の61%、部分断裂の44%で断裂が拡大し、拡大は新たな痛みの出現と関連。全体では46%が新たに痛みを経験。

切れたままの腱板は広がりうるし、広がると痛みが出やすい。ここは軽く扱えないなと思いました。一方で、痛みが出た腱板断裂を必ず手術しなきゃいけないのかというと、そうでもないみたいです。

  • Kuhn JE, Dunn WR, Sanders R, et al. Effectiveness of physical therapy in treating atraumatic full-thickness rotator cuff tears: a multicenter prospective cohort study. J Shoulder Elbow Surg. 2013;22(10):1371-1379. PMID: 23540577

    • 外傷によらない完全断裂452名に理学療法。2年間で手術を選んだのは25%未満=約75%は保存で経過。
  • Kukkonen J, Joukainen A, Lehtinen J, et al. Treatment of Nontraumatic Rotator Cuff Tears: A Randomized Controlled Trial with Two Years of Clinical and Imaging Follow-up. J Bone Joint Surg Am. 2015;97(21):1729-1737. PMID: 26537160

    • 症状のある非外傷性の棘上筋腱断裂180肩を、①理学療法のみ ②肩峰形成+理学療法 ③腱板修復+肩峰形成+理学療法にランダム化。2年後の機能スコア・痛み・満足度に3群で有意差なし(修復群だけ断裂は小さくなった)。結論は「高齢者の単独・症状のある非外傷性の棘上筋腱断裂では、保存療法が初期治療として妥当な選択肢」。

腱板を読んでいて、「つながらない」と「機能が戻らない」は別なんだと気づかされました。切れた腱は縫わなきゃつながらない。それでも、残った腱と周りの筋が仕事を引き受ければ、痛みなく肩は上がる。……これ、私たちが日々やっていることの説明になっていませんか。

3. 膝の半月板——縁の1〜2割にしか血が通っていない

半月板は「つながりにくい」組織として有名ですよね。理由は血行でした。

  • Arnoczky SP, Warren RF. Microvasculature of the human meniscus. Am J Sports Med. 1982;10(2):90-95. PMID: 7081532
    • 半月板に血を送る毛細血管網は、外周の10〜25%にしか入っていない。内側の大部分は血行がなく、この領域の断裂は自然には修復されにくい。

で、ここからが面白いところで。半月板、「切れている人」が驚くほど多いんです。

  • Englund M, Guermazi A, Gale D, et al. Incidental meniscal findings on knee MRI in middle-aged and elderly persons. N Engl J Med. 2008;359(11):1108-1115. PMID: 18784100
    • 一般住民991名(50〜90歳)のMRI。半月板の断裂・破壊の有病率は50代女性で19%、70〜90歳男性で56%
    • 半月板断裂のあった人の61%は、直近1か月に膝の痛み・うずき・こわばりがなかった。

さらに、変性の半月板断裂を手術で切り取っても、切り取ったふりをした手術(偽手術)と結果が変わらなかった、という二重盲検の試験まで出ていました。

  • Sihvonen R, Paavola M, Malmivaara A, et al.; FIDELITY Group. Arthroscopic partial meniscectomy versus sham surgery for a degenerative meniscal tear. N Engl J Med. 2013;369(26):2515-2524. PMID: 24369076
    • 変形性関節症のない35〜65歳、変性内側半月板断裂146名を、関節鏡部分切除と偽手術にランダム化。12か月後の主要評価項目すべてで有意差なし(Lysholmスコアの上昇は21.7点 vs 23.3点)。

半月板も、「つながらない」けど機能は戻せる側みたいです。ただ2つ、気をつけておきたいなと思いました。外傷で縦に裂けた若い人の半月板(血行のある縁の断裂)と、加齢で擦り切れた中高年の変性断裂は別の話であること。それと、膝が引っかかって伸びない・ロックする場合は、施術より先に医師の診察が要ること。この読み方は画像に写った「異常」は、痛みの犯人とは限らないと同じですね。

4. 筋肉(肉離れ)——再生しながら、瘢痕も残す

筋肉は、体の中で例外的に「再生できる」組織です。筋線維の周りに衛星細胞(satellite cell)という筋の幹細胞が待機していて、損傷が起きると活性化して筋線維を作り直してくれます。

  • Kaczmarek A, Kaczmarek M, Ciałowicz M, et al. The Role of Satellite Cells in Skeletal Muscle Regeneration—The Effect of Exercise and Age. Biology. 2021;10(10):1056. PMID: 34681155
    • 衛星細胞の主な役割は骨格筋の再生であり、その過程は炎症細胞に依存して進む。

ただ、再生だけが起きるわけじゃないんですよね。損傷部では同時に、結合組織による瘢痕形成も進みます。

  • Järvinen TA, Järvinen TL, Kääriäinen M, Kalimo H, Järvinen M. Muscle injuries: biology and treatment. Am J Sports Med. 2005;33(5):745-764. PMID: 15851777
    • 「大多数のアスリートでは、非手術治療で良好な機能的結果が得られる」としつつ、再生と修復の基本原理を知ることが、危険を避け、復帰を早めると述べている。本文では筋の修復を筋線維の再生と瘢痕形成が並行して進む過程として整理し、治療の柱に短い安静のあと、早期に動かし始めることを置いている。

診察室に落とすと、軽度〜中等度の肉離れは、筋線維が再生して「つながって」、機能も戻る。ただ損傷が大きいほど瘢痕の割合が増えて、「元どおり」からは遠くなる。ここは正直に伝えるようにしています。

5. 膝の内側側副靭帯——関節の外の靭帯は、保存で回復しやすい

MCLは関節包の外にある靭帯の代表ですね。完全断裂(グレードIII)でも保存が第一選択とされてきました。

  • Jones RE, Henley MB, Francis P. Nonoperative management of isolated grade III collateral ligament injury in high school football players. Clin Orthop Relat Res. 1986;(213):137-140. PMID: 3780082
    • 単独グレードIIIのMCL損傷の高校フットボール選手24名を保存療法で追跡。22名で膝の安定性が回復、平均29日で安定、平均34日で競技復帰。

ただ、保存療法の中身——何をどの順でやるか——の質の高い証拠は、いまも薄いみたいです。ここは正直、私たちの手元の裁量が大きいところですよね。

  • Svantesson J, Piussi R, Weissglas E, et al. Shedding light on the non-operative treatment of the forgotten side of the knee: rehabilitation of medial collateral ligament injuries—a systematic review. BMJ Open Sport Exerc Med. 2024;10(2):e001750. PMID: 38933372
    • 26報・1,912名。単独MCL損傷の非手術治療は「著しく不均一で、詳細の記載に欠ける」と結論。グレードI〜IIでは早期の荷重と歩行が許容されていた。

6. 前十字靭帯——「自然には治らない」が、揺らいでいました

ACLは関節の中にあって、関節液に浸されている。切れた端が血の塊で橋渡しされにくいから「自然治癒はしない」——そう習いましたよね。私もそうでした。

ところが2023年に、この常識を揺らす報告が続けて出ていました。

  • Filbay SR, Roemer FW, Lohmander LS, et al. Evidence of ACL healing on MRI following ACL rupture treated with rehabilitation alone may be associated with better patient-reported outcomes: a secondary analysis from the KANON trial. Br J Sports Med. 2023;57(2):91-98. PMID: 36328403

    • スウェーデンのKANON試験(120名)の二次解析。MRI上の靭帯の連続性(ACLOAS 0〜2)を「治癒の証拠」と定義。
    • リハビリ+必要時に遅延再建に割り付けられた54名のうち、2年後に16名(30%)でMRI上の治癒所見。遅延再建に進んだ人を除くと、リハビリのみで管理した30名のうち16名(53%)
    • 治癒所見があった群は、なかった群・遅延再建群・早期再建群のいずれより2年後のKOOS(スポーツ/QOL)が高かった(非治癒群との差=スポーツ25.1点・QOL 27.5点)。治癒群では各KOOS下位尺度で63〜94%が「受容できる症状状態」に達し、非治癒・再建群では29〜61%
  • Filbay SR, Dowsett M, Chaker Jomaa M, et al. Healing of acute anterior cruciate ligament rupture on MRI and outcomes following non-surgical management with the Cross Bracing Protocol. Br J Sports Med. 2023;57(23):1490-1497. PMID: 37316199

    • 急性ACL断裂の連続80名(平均26歳)を、膝を90度屈曲位で4週間固定し、12週かけて可動域を段階的に広げるプロトコル(Cross Bracing Protocol)+理学療法士管理下のリハビリで非手術管理。
    • 3か月のMRIで90%(72名)に靭帯の連続性。所見が良好な群ほど機能とQOLが高く、受傷前スポーツへの復帰は92% vs 64%。一方で14%(11名)が再受傷

ここは、自分に3つ言い聞かせながら読みました。

  1. どちらも「靭帯が元どおりになった」じゃなくて「MRI上で連続性が見えた」という話。組織の質は、冒頭の瘢痕の話と切り離せません。
  2. Cross Bracing Protocolは単群・短期・専門医と理学療法士の管理下。90度固定に伴う合併症の管理も込みです。私が真似できるものじゃありません。
  3. 手術か保存かは、年齢・競技・半月板や他の靭帯の合併損傷をふまえて医師が判断すること。そこに私が踏み込むことはありません。

それでも、この2報を読んで自分の中で変わったことがあります。「関節の中の靭帯は絶対に治らない」と患者さんに言い切るのを、やめました。

7. アキレス腱——完全断裂でも、手術と保存の差は小さい

「手術しないと再断裂する」と言われてきたやつですね。いまの数字はこうでした。

  • Ochen Y, Beks RB, van Heijl M, et al. Operative treatment versus nonoperative treatment of Achilles tendon ruptures: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2019;364:k5120. PMID: 30617123
    • 29報(ランダム化比較試験10報944名・観察研究19報14,918名)。
    • 再断裂率は手術2.3% vs 保存3.9%。手術で減るけど差は小さい(差にすると1.6ポイント)。
    • 早期に可動域を出す機能的リハビリを用いた研究では、手術と保存で再断裂率に有意差なし。
    • 合併症は手術4.9% vs 保存1.6%。手術側は感染(2.8%)、保存側は深部静脈血栓症が主。
    • 結論は「個々の患者要因をふまえた共同意思決定」。

腱も瘢痕でつながる組織です。それでも、動かし方次第で「手術をしない選択」が手術と肩を並べるところまで来てるんですね。

7つの組織を、1枚にしてみました

組織「つながる」か「元どおり」か結果を分けるもの
足首の靭帯大半でつながる瘢痕=弱く・伸びやすい早期の機能的治療(固定一辺倒にしない)
肩の腱板完全断裂はつながらない残った腱と筋で機能を戻す(保存で約75%が手術回避)
膝の半月板縁の1〜2割以外はつながりにくい切れていても痛みのない人が6割。変性断裂は手術と偽手術に差なし
筋肉再生する(衛星細胞)損傷が大きいほど瘢痕が残る短い安静→早期に動かす
膝の内側側副靭帯瘢痕でつながる同上早期の荷重・歩行
前十字靭帯条件次第で連続性が戻る報告同上(質は瘢痕の話)医師の判断・管理下のプロトコル
アキレス腱瘢痕でつながる同上早期に可動域を出すリハビリ

並べてみて、共通項が2つ見えました。「つながる」と「機能が戻る」は別々に動くこと。そして組織を問わず、「固定一辺倒」より「早めに機能的に動かす」ほうが成績がよい方向で研究がそろっていること。

「戻らない」の理由は、組織ごとに全然ちがう

ここまで書いてから、院長仲間に聞かれて「あれ、答えられないな」と思ったことがあります。腱板が切れたところは、結局どうなるのか。他の組織と比べてどうなのか。

調べてみたら、「戻る力」にはっきり順位がありました。そして面白いのは、「戻らない」の理由が組織ごとにまったく違うことです。

戻る力組織戻り方戻らない理由
唯一の例外瘢痕を作らず、骨そのものに戻る
○ 遅いが戻る末梢神経管が残っていれば軸索が伸びる遅く、多くは不完全
筋肉衛星細胞で再生+瘢痕損傷が大きいほど瘢痕が増える
皮膚・靭帯・腱瘢痕でつながる弱く・大きく・伸びやすい
半月板外周10〜25%だけ内側に血管がない
関節軟骨ほぼ戻らない血管がなく、細胞が動けない
腱板(完全断裂)自然にはつながらない端が縮む+血行+付着部が再生しない

骨だけが、本当に「元どおり」になる

骨折の治癒は、瘢痕を作りません。炎症→間葉系幹細胞の動員→軟骨性の仮骨→血管が入って石灰化→リモデリングで正常な骨構造まで戻る(Marsell & Einhorn 2011・Injury 42(6):551-555 / PMID: 21489527)。しかも条件が良ければ、層板骨とハバース系をリモデリングの段階を経ずにそのまま再生します。

私たちが日常で扱う組織の中で、文字どおり「元どおり」と言えるのは骨だけでした。これ、意外じゃないですか。いちばん硬くて、いちばん治らなそうに見えるものが、唯一きちんと戻る。

末梢神経は「戻るけれど、遅くて不完全」

  • Grinsell D, Keating CP. Peripheral nerve reconstruction after injury: a review of clinical and experimental therapies. Biomed Res Int. 2014;2014:698256. PMID: 25276813
    • 他の組織と違って、末梢神経の再生は遅く、たいてい不完全である」。神経修復を受けた患者のうち、良好〜優秀な運動・感覚機能を取り戻すのは半数未満

しびれの相談を受けるときに、この温度感は持っておきたいと思いました。

軟骨は、250年ひっくり返っていない

  • Malda J, Groll J, van Weeren PR. Rethinking articular cartilage regeneration based on a 250-year-old statement. Nat Rev Rheumatol. 2019;15(10):571-572. PMID: 31367006
    • 1743年にジョン・ハンターが書いた一文が、いまも引用され続けています——「潰瘍化した軟骨は厄介なもので、一度破壊されると修復されない」。

血管がなく、軟骨細胞が動けない。だから材料が現場に届かない。「戻らない」の理由が、腱板とはまったく別です。

そして腱板は、いちばん厳しい部類だった

完全断裂がつながらない理由は、3つ重なっていました。

  1. 端が縮んで、届かなくなる(靭帯のように瘢痕で橋渡しできない)
  2. 血行が乏しい
  3. 腱と骨のつなぎ目(付着部)が、大人では作り直せない

3つ目が本丸です。健康な腱-骨の接合部は「腱→非石灰化線維軟骨→石灰化線維軟骨→骨」という4層のグラデーション構造で、これは発生のときにしか作られない。縫っても、そこは瘢痕でくっつくだけです。

だから再断裂が多い。

  • McElvany MD, McGoldrick E, Gee AO, Neradilek MB, Matsen FA. Rotator cuff repair: published evidence on factors associated with repair integrity and clinical outcome. Am J Sports Med. 2015;43(2):491-500. PMID: 24753240

    • 108報・8,011肩再断裂率は加重平均26.6%(平均23.7か月)。脂肪浸潤・断裂が大きい・高齢で上がる。
    • そして——「腱板の連続性が回復したかどうかに関わらず、患者報告アウトカムはおおむね改善していた」
  • Longo UG, Carnevale A, Piergentili I, et al. Retear rates after rotator cuff surgery: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskelet Disord. 2021;22(1):749. PMID: 34465332

    • 31報。追跡時期別の再断裂率は15〜21%

McElvany の最後の一文、私は読んで手が止まりました。構造が戻らなくても、成績は上がっている。 Kukkonen 2015(保存と手術で2年後に差なし)と、同じことを別の角度から言っていますよね。

戻らない組織ほど、「周りをどう使うか」で結果が決まっている。

腱板は戻らないのに、保存で約75%が2年後も手術に至らない(Kuhn 2013)。縫って再断裂しても成績は上がっていた(McElvany 2015)。体は「その組織を元に戻す」のではなく、別のやり方で仕事を回すことで機能を取り戻しているようです。

では、切れていて「痛い人」は、なぜ痛いのか

ここまで書いて、いちばん引っかかったのがこれでした。腱板断裂の3人に2人が無症状なら、残りの1人はなぜ痛いのか。

調べたら、はっきりした答えがありました。断裂側の要素では、説明できませんでした。

  • Dunn WR, Kuhn JE, Sanders R, et al. Symptoms of pain do not correlate with rotator cuff tear severity: a cross-sectional study of 393 patients with a symptomatic atraumatic full-thickness rotator cuff tear. J Bone Joint Surg Am. 2014;96(10):793-800. PMID: 24875019
    • 症状のある非外傷性の完全断裂393名断裂の重症度を示す指標は、どれ一つ痛みと相関しなかった(すべて p>0.25)——大きさ・退縮・骨頭の上方化・筋の萎縮。
    • 相関したのは併存疾患(p=0.002)・教育歴(p=0.004)・人種(p=0.041)の3つだけ。

「切れ方がひどいから痛い」ではなかった。では何が違ったのか。3つ見つかりました。

① 止まっているか、広がっているか

Keener 2015(前述)では、新しい痛みが出たのは断裂が拡大した肩でした。痛みの発生は対照28%・部分断裂46%・完全断裂50%。

  • Mall NA, Kim HM, Keener JD, et al. Symptomatic progression of asymptomatic rotator cuff tears: a prospective study of clinical and sonographic variables. J Bone Joint Surg Am. 2010;92(16):2623-2633. PMID: 21084574
    • 無症状の断裂195名を追跡し、44名(23%)に新しい痛みが出た。痛くなった群は初期の断裂が大きく、完全断裂の18%が5mm以上拡大、部分断裂の40%が完全断裂へ進行。

「切れている」は静止画、「広がっている」は動画。痛みと関係していたのは動画のほうでした。

② 動かし方が変わっているか

同じ Mall 2010 に、もう一つ書いてありました。痛くなった群では——

早期の外転で、肩甲上腕関節に対する肩甲胸郭の代償運動が増えていた。

そして、これを筋活動で直接測った研究があります。

  • Shinozaki N, Sano H, Omi R, et al. Differences in muscle activities during shoulder elevation in patients with symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears: analysis by positron emission tomography. J Shoulder Elbow Surg. 2014;23(3):e61-e67. PMID: 24012359
    • PETで挙上時の筋活動を実測。症状のある群では三角筋(前部・中部)の活動が有意に低下し、僧帽筋上部の活動が有意に増加していた。
    • 著者の結論——「痛い肩甲上腕関節をあまり動かさず、痛くない肩甲胸郭関節を多く動かしていた可能性が高い」。

これ、「かばっている」を機械で測ったものですよね。私は正直、この一文を読んだときにいちばん腑に落ちました。

③ 全身と、神経の側

Dunn 2014 の「併存疾患」がここに入ります。加えて——

  • Peng R, Yang R, Ning N. Central sensitization syndrome in patients with rotator cuff tear: prevalence and associated factors. Postgrad Med. 2023;135(6):593-600. PMID: 37505056
    • 腱板断裂の患者の39.4%に中枢性感作。症状6か月超・肩の硬さ・不安や抑うつと関連していた。

ここは正直に線を引いておきます

代償が「原因」なのか「結果」なのかは、まだ決まっていません。

Mall 2010 は痛みと代償が同時に現れたのを観察しただけですし、Shinozaki 2014 は横断研究です。痛いからかばうのか、かばうから痛いのか——順番は証明されていません。

ここを飛ばすと、私たちに都合のいい読み方になります。私も、なりかけました。

それでも、この3つを並べて見えることは1つあります。

「切れているか」では分かれない。「どう動かしているか」で分かれている。

そして後者は、私たちが触れる側の領域です。断裂の大きさは変えられませんが、かばい方は変えられる。

私は、この問いをこう扱っています(私見)

ここからは私の考え方なので、証明された定説ではありません。

患者さんに「元に戻らないんですよね」と聞かれたとき、いまはこう答えています。

「きずあとの組織でつながります。ただ前と同じ組織ではないので、そのあとの使い方(アドバイス)とトレーニングで良い状態にしていきます」

「つながる」ことは認めて、「元どおり」とは言わない。その上で、良い状態にする手段が、そのあとの使い方と体の使い方の練習にあることを、最初の一言で渡す。この形に落ち着きました。

私が見ているのは、切れた線維そのものじゃないんですよね。実録・朝の一歩目のかかと痛と反対側の足首に書いたとおり、「怪我」と「機能低下」を分けて扱っています。捻挫という怪我は、固定と氷で回復を待つ。でもその間に、痛みをかばって使わなくなった側の関節や、負担を肩代わりしている反対側の足に、怪我とは別の「動いていない場所」が生まれてしまう。痛みの真因は「動いていないところ」に書いた話は、外傷のあとにもそのまま当てはまるなと感じています。

腱板と半月板の研究は、この見方を後押ししてくれました。切れている場所と、痛みを出している場所は、一致しないことが多い。切れたままでも機能が戻る人が多数いるなら、私たちが見るべきは「切れたところ」より「かばって動かなくなったところ」なんじゃないか、と。

研究が「早めに機能的に動かすほうがよい」と示していることも、この考え方と矛盾しませんでした。固定は必要最小限にして、動かせる場所から動かしてもらう。私がそうしているのは、切れた組織を早く回復させるためというより、かばいの連鎖で新しい原因を作らないためです。

⚠️ ここははっきり書いておきます。うちに、切れた靭帯や腱を「くっつける」施術はありません。瘢痕の質を変える手技があるわけでもない。やっているのは、つながったあとの体が、弱くなった組織をかばい過ぎずに動ける土台を整えること、そして体の使い方を渡すこと。それが施術の範囲です(※変化の感じ方には個人差があります)。

診察室での言い方——私が変えたところ

言い方だけで、患者さんの受け取りが本当に変わりますよね。以前の自分と、いま使っている形を並べておきます。もし参考になる行があれば。

以前の私の言い方いま使っている言い方
切れたら一生元には戻りませんきずあとの組織でつながります。ただ前と同じ組織ではないので、そのあとの使い方(アドバイス)とトレーニングで良い状態にしていきます
靭帯は自然には治りません靭帯の種類と状態によります。判断は医師の画像と診察が要ります
腱板(半月板)が切れているから痛いんです切れていても痛みのない人のほうが多い、という調査があります。痛みを出している場所を、動きの中で一緒に探します
手術しないと治りません言わない)手術か保存かは医師が決めることで、私が決めることではありません
痛みが取れたら治っています痛みと組織の強さは別です。つながったあとにかばっている場所を一緒に見ていきます

数字の使い方は、「腰痛の85%は原因不明」は本当かで書いたときと同じつもりで持っています。53%や75%は、患者さんを安心させて、動く気力を保つために使う。「だから手術は要らない」と読ませるために使ってしまったら、目的から外れますよね。

自分に引いている線

  • 先に医療機関へ——受傷時の断裂音、体重をかけられない、変形、急速に強くなる腫れ、明らかな不安定感、膝が引っかかって伸びない、しびれや脱力。ここは施術より受診が先で、画像と診断は医師の役割です。線引きは施術しないを設計するに別立てで書きました。
  • 手術か保存かに、私は踏み込まない。迷って相談してこられたときは「医師と、再断裂率や合併症の数字を見ながら決めるものです」と返しています。
  • 切れたままの腱板は広がりうる。「痛みがないから放っておいていい」とは言いません。定期的に医師に診てもらうことをおすすめしています。
  • 専門施設のプロトコル(90度固定など)は真似しない。単群・短期の報告ですし、合併症の管理まで含めた医療の枠組みの中でやられているものです。
  • 保存療法にも危険はある。アキレス腱断裂の保存療法の主な合併症は深部静脈血栓症(Ochen 2019)。ふくらはぎの腫れと痛み、息切れは、施術の対象ではなく受診のサインです。

まとめ

  • 「元に戻るか」は、「つながるか」と「元どおりになるか」を分けて考えると整理できました。
  • 靭帯・腱は瘢痕でつながるけど、瘢痕は正常組織より弱く・大きく・伸びやすい(Hildebrand & Frank 1998)。足首の捻挫は大半が回復するが20〜30%が慢性不安定症へ(Guillo 2013)。
  • 腱板は完全断裂だとつながらないが、断裂を持つ人の約3分の2は無症状(Minagawa 2013)で、保存療法で約75%が2年後も手術を要さず(Kuhn 2013)、手術と保存で2年後の成績に差なし(Kukkonen 2015)。ただし断裂は広がりうる(Keener 2015)。
  • 半月板は縁の10〜25%にしか血行がなく(Arnoczky 1982)つながりにくいが、断裂のある人の61%は痛みがなく(Englund 2008)、変性断裂の切除は偽手術と差がなかった(Sihvonen 2013)。
  • 筋肉は衛星細胞で再生しつつ瘢痕も残す。MCLは保存で24名中22名が安定(Jones 1986)。ACLはリハビリのみで約半数に2年後MRIで連続性(Filbay 2023)。アキレス腱は手術と保存の再断裂率の差が小さい(Ochen 2019)。
  • 戻る力の順位=骨(唯一、瘢痕を作らず元どおり・Marsell 2011)>末梢神経(遅く不完全・回復は半数未満・Grinsell 2014)>筋肉>皮膚・靭帯・腱>半月板>軟骨(Hunter 1743から250年)・腱板の完全断裂。「戻らない」の理由は組織ごとに違う(軟骨=材料が届かない/腱板=端が届かない+付着部が作り直せない/靭帯=つながるが質が落ちる)。
  • 腱板は縫っても再断裂26.6%(8,011肩・McElvany 2015)。それでも「連続性が回復したかどうかに関わらず、成績はおおむね改善していた」戻らない組織ほど「周りをどう使うか」で決まる
  • 痛い人と痛くない人を分けているのは断裂ではない。大きさ・退縮・骨頭上方化・筋萎縮はどれも痛みと無相関(Dunn 2014・393名)。分かれるのは①拡大(Keener 2015/Mall 2010)②動かし方(症状側は三角筋↓僧帽筋上部↑=痛い関節を避けて別の関節で動かす・Shinozaki 2014)③全身と神経(併存疾患/中枢性感作39.4%・Peng 2023)。⚠️因果の向きは未決着。
  • 共通項=「つながる」と「機能が戻る」は別々に動く。そして固定一辺倒より早めに機能的に動かす方向で研究はそろっている。
  • 私たちの仕事は、切れた組織をくっつけることじゃなくて、つながったあと(つながらないままでも)の体が、かばい過ぎずに動ける土台を整えて、使い方を渡すこと。診断と手術の判断は医師の役割で、red flags が先です。

本記事は治療家向けの情報整理であり、特定の損傷に対する診断・治療方針を示すものではありません。手術か保存かの選択は、医師の診断と患者さんの共同意思決定によります。院長の考え方として記した部分は臨床経験に基づく私見で、科学的に証明された定説ではありません。

大黒 充晴

大黒 充晴院長/柔道整復師(国家資格)

枚方市・大黒整骨院 院長。臨床23年・延べ5万人以上の施術。電気や温熱の機械を使わず、関節の数mmのズレとファシア(筋膜を含む結合組織)への手技を軸に施術する。

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