実録・朝の一歩目のかかと痛と、反対側の足首|「怪我」と「機能低下」を分けて診る
治療家ノート初の実録形式。半年続く右かかとの『朝の一歩目』の痛みで来院された患者さんが、初回の1週間前から反対側の足首も痛めていた——初回と2回目の実際の診察から、主訴を1つに絞る問診、『かばった側の二次的災害』という見立て、怪我(捻挫=固定と氷)と機能低下(10の筋力を10使えていない)を分けて扱う治療計画、回数×期間の考え方までを、院長の実際の言葉で再構成する。個人が特定されないよう、経過に関わらない情報は省略・変更済み。
治療家ノートは今回が初めての実録形式だ。理念や講義ではなく、実際の初回と2回目の診察がどう流れたかを、私の実際の言葉で再構成する。教材として選んだのは、半年続く右かかとの痛みで来院され、その初回の時点で反対側の足首も1週間前から痛めていた患者さん。左右で「怪我」と「機能低下」を分けて扱う、当院の見立ての型がよく出た症例だと思う。※個人が特定されないよう、経過に関わらない情報は省略・一部変更している。
症例の概要
更年期世代の女性の患者さん。ネット検索で当院のブログ記事にたどり着き、来院された。
- 右かかと〜足裏の筋:半年前から。朝の一歩目が最も痛く、立つのに苦労する。しばらく歩くとごまかせる。ここ1カ月は日中もふとした瞬間に痛む。他院に3カ月通ったが変わらなかった。
- 左の外くるぶし付近:初回の1週間前、新しいサンダルを半日履いた日から痛み出し、以後歩くたびに痛い。
- 立ち仕事。持ち場を離れて急に動き出す場面が増えてから、足首の痛みが増した実感がある。靴はウォーキングシューズで、これは適切と判断。
- 既往:20代で首の椎間板ヘルニア(ボキボキする施術のあとに痛みが取れず、医療機関のMRIで診断されたという経緯)、腰のヘルニアもMRIで指摘歴あり。
1. 問診——「一番治したいものを、1つだけ」
主訴が複数あるとき、私は必ず**「1個だけ、一番治したいのはどれですか」**と聞く。
この方の答えは揺れた。「ここが痛くなかったら、右のかかとだった。でも今は歩きたいから左の足首」。そこで痛みの強さを比べてもらう。左を1とすると、朝の右かかとは5。歩行を邪魔しているのは左だが、痛みの強度も、抱えている時間も、右が圧倒的だった。
「今いちばん困っているもの」と「いちばん根が深いもの」は、しばしば別にある。それを患者さんと共有するところから治療計画が始まる。時系列を並べ直すのはそのためだ。
2. 見立て——左の足首は「二次的災害」
私の見立てはこうだ。根深いのは右。左は、右をかばった二次的災害。
右のかかと側が半年動いてくれていないから、左がかばい続け、かばいきれなくなったところに新しいサンダルの半日が重なって、左の足首を痛めた。歩くとき本来は左右5:5で働くべきところが、右が1しか働かなければ左は9を負う。その過度なストレスの先に、左の捻挫がある——そういう構図だ。
だから優先順位は明確で、痛みが強いのは左でも、メインは右。左だけ診れば「捻って痛めた足首」という単純な話に見えるが、この方は捻ってすらいない。かばいの蓄積で壊れている。右がちゃんと動くようにならない限り、左は「捻挫の治癒」と「かばい続ける負担」を同時に背負うことになり、治りようがない。
発症した半年前がスタートではない、という点も毎回伝える。発症はスタートではなく、もっと前から年単位で始まっている。だから体を変えるのにも、それ相応の期間を見る。
3. 「怪我」と「機能低下」を分ける
この症例の教材価値は、左右で扱いがまったく違うことだ。
左の足首は「怪我」。歩くたびに痛いということは、靭帯なり組織なりを損傷している。痛いということは腫れている。皮膚にできた傷から血が出ているのと同じことが、中で起きている。だから扱いは捻挫=怪我の扱いで、骨折を治すのと同じ発想——正しい位置での固定と、氷でのアイシング。どこか硬いところを緩めたら治る、という話ではない。「筋肉が硬いから」でも「機能低下」でもなく、損傷。ここを取り違えると、何をやってもミスマッチになる。
右のかかと側は「機能低下」。こちらは怪我ではない。私の言い方では、10割ある筋力を10使えていない状態だ。筋力が足りないのではないから、筋トレは要らない。実際この方は、他院で「痩せないと治らない」と言われて5kg減量したが、痛みは変わらなかった。体重の問題ではない。使えていない原因——体のズレ、動きの引っかかり——を解除して、10を10使えるようにする。それは私の仕事だ。
この切り分けを患者さんと共有すると、治療計画が腑に落ちる。「左はある意味、自分でも治せる治療(固定とアイシング)。右は私の仕事。右が動けば左の負担が減って、左は自然に治る方向に向かう」——同時並行の設計だ。
4. アイシング指導の実際——氷限定、そして「続く形」に落とす
アイシングの伝え方も、実際の言葉で書いておく。
- 氷限定。保冷剤はダメ。氷を袋かアイスバッグに入れて、患部に直接。ここを守らないと効果がはっきりしない。
- 理想は30分でも、続けられない完璧より、続く適当。「今日は1分しかできなかった」でいい。10秒でもやったら違う。短期間だけ頑張って途切れるより、適当でも続くほうが強い。
- やる・やらないの判断も伝える。何もしていないのに痛む「うずき」は炎症の暴走なので、アイシングは必ず。一方、動けていて痛みが一定なら「絶対」ではない——余力があるなら、やったほうがいい、という位置づけ。
最後の「余力があるなら」には理由がある。こういう症状が出る方は、たいてい頑張り屋だからだ。真面目な方ほど「絶対やらなきゃ」と、睡眠を削ってでもアイシングをやってしまう。それでは本末転倒——睡眠のほうが大事だ。体は口がきけないから、容量を超えた頑張りは、痛みか病気の形で「オーバーしていますよ」と訴えるしかない。痛みと病気は同根という第7号の見方は、診察室ではこういう言葉になる。選べるところでは、頑張るのではなく休むほうを選ぶ。それも治療の一部として伝えている。
5. 治療計画——回数×期間、主役は「期間」
通い方の説明も、この症例ではっきり伝えた。治療は回数と期間の掛け算であり、私が重く見るのは期間のほうだ。
極端に言えば、同じ回数なら、1週間毎日詰めて来るより、間隔を置いて長く続くほうがいい。年単位でできあがってきた体は、すぐには変わらない。時間という薬が要る。実際の設計としては、最初だけ週1回程度で詰めて、そこから徐々に間隔を空けていくのがいちばんスムーズだ。
6. 実地で動いていた安全設計
このノートを第24号・第25号の直後に置いたのには理由がある。基準が実際の診察でどう動くかが、この記録には出ていたからだ。
- 施術前の**「痛すぎたら言ってくださいね」**は、この日も施術に入る前に伝えている。
- 患者さんが「前回の施術のあと、首まわりがだるかった」と教えてくれた。これには**「そういうのは、どんどん言ってください」**と返し、刺激に強い方ではないという印象を施術の強度設計に織り込んだ。翌日に響いた事実は、強さを下げる理由ではなく、質と設計を見直す情報になる(第25号)。
- 施術後は実際に歩いてもらい、変化を確認してから帰っていただく。
おわりに——実録という形式について
講義は「こう考えている」を語れるが、診察の録音は「実際にこう言っている」しか残らない。その分、ごまかしが利かない。読み返すと、自分の説明の癖も、まだ言葉が足りないところも見える。実録は今後も、いい素材が録れたときに続けるつもりだ。
補足
本ノートは私の治療家としての見立てと説明の実例であり、診断は医療機関の役割である。同じ症状に見えても原因・経過は人によって異なり、改善の感じ方には個人差がある。強い腫れ・変形・安静時痛・しびれの進行などがある場合は、医療機関の受診を優先してほしい。
本ノートは治療家・専門家向けの覚え書きであり、特定疾患の診断・治療や、当院施術の効果を保証するものではありません。

大黒 充晴院長/柔道整復師(国家資格)
枚方市・大黒整骨院 院長。臨床23年・延べ5万人以上の施術。電気や温熱の機械を使わず、関節の数mmのズレとファシア(筋膜を含む結合組織)への手技を軸に施術する。