「病院でこう言われました」に、どう応じるか|狭窄症・手術・薬をめぐる会話の設計
患者さんは、病院の説明を持って来院される。神経の通り道が狭くなっている、改善しなければ手術も、まずは薬を1週間——この言葉を前にして、治療家は何を言い、何を言ってはいけないのか。医師を否定せず、しかし患者さんが自分で決められる状態にするための、狭窄症・手術・薬をめぐる会話の設計を書く。
患者さんは、たいてい病院の説明を持って来院される。「神経の通り道が狭くなっていると言われました」「改善しなければ手術もあると言われました」「まず薬を1週間試すことになりました」——。この言葉を前にして、治療家が何を言い、何を言ってはいけないのか。ここは技術ではなく設計の問題で、間違えると患者さんを板挟みにする。私が診察室で使っている枠組みを書いておく。
まず、否定から入らない
いちばんやってはいけないのは、医師の説明を否定するところから始めることだ。
「その診断は違いますよ」と言った瞬間、患者さんの中には対立が生まれる。病院に行くたびに私の言葉を思い出し、私のところへ来るたびに医師の言葉を思い出す。板挟みになるのは患者さんであって、私たちではない。
そして現実問題として、私たちには診断の権限がない。画像を読んで病名を決めるのは医師の仕事だ。ここは施術しないという技術(禁忌・中止基準・危険サイン)で書いた線引きと同じで、越えた瞬間に信用ごと失う。
だから枠はひとつしかない。役割が違うだけ、である。
- 医師=診断する。危険な病気を見つけ、必要なら手術や投薬を判断する
- 私たち=動きを見る。診断のついた体に、どこが動いていないかという別の角度から手を入れる
この枠を最初に置いてから、中身の話に入る。
「狭窄症だと言われました」に、何を渡すか
いちばん多いのがこれだ。特に一度でも脊柱管狭窄症と診断された経験のある方は、症状が出るたびに「また出た」と結びつけて来られる。
私がまず渡すのは、事実としてこれだ。
脊柱管狭窄症は、経年変化のひとつです。経年変化というのは、言い換えれば老化現象です。だから年齢を重ねれば、多かれ少なかれ、みなさんにあります。
そのうえで、こう続ける。
狭窄があっても、腰痛やしびれのない方はたくさんおられます。
ここは私の私見ではなく、研究で確かめられていることだ。地域住民のMRIでは重度の狭窄がある人でも症状のある人は17.5%(約82%は無症状)、無症状集団を対象にしたメタ解析でも画像上の狭窄は11%に見つかる。数字と出典は「腰痛の85%は原因不明」は本当かと画像に写った「異常」は、痛みの犯人とは限らないに整理してある。
伝えたいのは、「狭窄がある」と「狭窄が今の痛みの原因だ」は別の話だということ。この一点だけで、患者さんの表情はかなり変わる。
⚠️ ただし、症候性の狭窄は実在する。ここを緩めない。神経性間欠跛行(歩くと下肢がしびれて重くなり、座る・前かがみで楽になる)がはっきりある、進行する筋力低下がある、排尿排便の異常がある——こうした所見があるなら、それは画像所見ではなく症状の話であり、医師の領分だ。「狭窄は無症状の人も多いですから」を、この人たちに言ってはいけない。
「削らないと治りません」と言われた人に
医師から強い言葉で言われて、不安のまま来られることがある。
ここで私が渡すのは、否定ではなく、力の抜き方だ。
狭窄があっても痛くない方はたくさんおられるので、そこは「そうなんだ」と思いすぎなくて大丈夫ですよ。
「間違っている」とは言わない。「思いすぎなくていい」と言う。この差は大きい。前者は医師との対決になるが、後者は患者さんの心の余白をつくるだけで済む。
そしてもうひとつ、必ず添えることがある。
「それでも手術は受けたくないです」と、先生に言っていいんですよ。
これは治療の話ではなく、患者さんの自己決定を支える話だ。医療者に強く言われると、希望を口に出してはいけないと思い込んでしまう方が本当に多い。言っていいと一言もらえるだけで、患者さんは主治医と対話できるようになる。私たちがしているのは、その背中を押すことであって、方針を決めることではない。
手術の話は、どう整理するか
手術をすすめられたと聞いたら、私はまずどこを手術するという話なのかを一緒に整理する。決めるためではなく、患者さんが主治医に何を聞けばいいか分かるようにするためだ。
腰部脊柱管狭窄症に対する手術は、腰椎のレベルで神経の通り道が狭くなっていることが前提になる。だから、画像で腰椎に明らかな圧迫が指摘されていないのに手術の話が出ているなら、そこには確かめるべき空白がある。「どの部位の、何に対する手術なのでしょうか」——これは患者さんが主治医に聞いていい、まっとうな質問だ。
臀部で坐骨神経が圧迫されるという見方(いわゆる梨状筋症候群)が示唆されることもある。ただし、これは坐骨神経痛に対して一般的に行われる手術の対象ではない。そこも含めて、判断は医師のものだ。
⚠️ ここで治療家が絶対にやってはいけないこと。
- 「手術は必要ありません」と言う(適応判断は医師の領分。私たちには画像も検査もない)
- 「手術しても治りませんよ」と言う(結果を予測する立場にない)
- 手術の予定をこちらの都合で先延ばしさせる(重大な見落としにつながる)
私がするのは、質問を整理して患者さんに返すところまで。答えは主治医が持っている。
薬を、どう扱うか
「薬をもらったが効いていない」「副作用で飲めなかった」——これもよく持ち込まれる。
まず大前提として、服薬をやめるようすすめることは絶対にしない。 処方は医師の領分で、勝手に中断させれば実害が出る。
そのうえで、私が渡している整理はひとつだけだ。
症状を抑えることと、症状が出にくい体をつくることは、別の作業です。
薬は前者を担当している。そして前者には、はっきりと価値がある。 痛みが強すぎれば眠れないし、動けないし、体を変える作業にも取りかかれない。薬で楽になっている時間は、体の側に手を入れるために使える時間でもある。
私が伝えるのはここまでで、薬と施術を対立させない。「薬に頼るな」という言い方をした時点で、患者さんは主治医に嘘をつくようになる。それは誰の得にもならない。
なお、対症と根治を混同しないという構えそのものはDAIKOKUメソッドの臨床根拠に、その背景にある「なぜ世の中には対症で終わるものが多いのか」という話は「健康の常識」は誰のためにあるかに書いた。⚠️ ただし後者の構造論は、患者さんには語らない。陰謀論に聞こえて信用を落とすだけだ。
「今が、いちばん若い」
見通しの話をするとき、私がよく使う言い方がある。
体は1日ずつ年をとっていきます。だから、今日がいちばん若い。
これは急かすための言葉ではない。先延ばしにする理由がないことを、責めずに伝えるための言葉だ。「早くしないと手遅れになりますよ」と脅すのとは、向いている方向が正反対になる。
体は数回で変わるものではないので、数ヶ月の単位でコンスタントに通ってもらう必要がある——その見通しも、この流れの中で正直に渡す。詳しくは「私、何かしたんでしょうか」——原因を聞かれたときに何を渡すかに書いた。
言い方の一覧
| ❌ 言わない | ✅ 言う |
|---|---|
| その診断は間違っています | 役割が違います。診断は先生の担当で、私が見るのは動きです |
| 狭窄症は関係ありません | 狭窄があることと、それが今の痛みの原因かは別の話です |
| 手術は必要ありません | どの部位の、何に対する手術なのかを、先生に聞いてみてください |
| 手術しても治りませんよ | (言わない。結果を予測する立場にない) |
| 薬に頼らないほうがいいです | 薬は症状を抑える担当です。楽な時間を、体を変えることに使いましょう |
| 病院で分からないものが、うちなら分かります | 病院で見るべきものは見てもらえたので、私は別の角度から見ます |
| 早くしないと手遅れになります | 体は1日ずつ年をとります。だから今日がいちばん若いです |
越えてはいけない線
最後に、この会話全体を成り立たせている前提を確認しておく。
- red flags が最優先。 進行する筋力低下、排尿排便の異常、サドル型の感覚障害、発熱、体重減少、夜間の激しい痛み、がんの既往。これらがあるときに「狭窄は無症状の人も多い」という話をしたら、それは見落としの加担になる。
- 受診を止めない。 通院や検査の予定に、こちらから手をつけない。
- 診断名を私たちが下さない。 見立ては施術のためのものであって、診断ではない(診断哲学——局所仮説を捨て、全体を感じる)。
- 当院の施術で狭窄を治すとは言わない。 構造そのものを変える約束はしない(※変化の感じ方には個人差があります)。関節のわずかなズレを整えるときはほとんど痛みがなく、こわばったファシアの硬結をゆるめるときは痛みを伴うことが多い——施術の感覚は、いつもどおり二層で正直に伝える。
※ここに書いた会話の組み立ては、**私の臨床経験に基づく考え方(私見)**であり、科学的に証明された定説ではありません。
まとめ
- 患者さんは病院の説明を持って来る。否定から入らない。枠は「役割が違うだけ」。
- 狭窄症は経年変化=老化現象のひとつ。狭窄があることと、それが原因であることは別。数字と出典は別ノートに。
- 強い言葉で言われた人には、否定ではなく「思いすぎなくていい」と、「手術は受けたくないと先生に言っていい」を渡す=自己決定の支援。
- 手術は質問を整理して返すところまで。「必要ない」「しても治らない」は言わない。
- 薬はやめさせない。症状を抑える担当と、症状の出にくい体をつくる担当は別、という整理だけを渡す。
- 見通しは「今日がいちばん若い」で。脅さない。
- ⚠️ red flags が先、受診を止めない、診断名を下さない、狭窄を治すとは言わない。

大黒 充晴院長/柔道整復師(国家資格)
枚方市・大黒整骨院 院長。臨床23年・延べ5万人以上の施術。電気や温熱の機械を使わず、関節の数mmのズレとファシア(筋膜を含む結合組織)への手技を軸に施術する。