根本原因の治療と、症状改善の治療|二段構えのプロトコルと、その順番
大黒 充晴(院長/柔道整復師・臨床23年)
はじめに——「痛い場所が原因でない」を、実務に落とす
第13号で、「どう観るか」という構えを書いた。本号は、その構えのうえで実際にどう手を動かすか——治療の組み立てを書く。
まず、原因を二つに分けて捉えると整理しやすい。今回、話しながら腑に落ちた分け方だ。
- 根本原因=症状を生み出している、体の土台の構造的な歪み・機能不全。
- 症状(の)原因=根本原因が積み重なった末に、最後に痛みとして表面化した、直接のきっかけ。
根本原因があり、それが体の歪み(分かりやすく言えば関節のズレ)を生み、かばってまたかばって……とバランスの崩れが積み重なり、最後に症状になる(第7号・負のループ)。
だから治療も二層になる。「根本原因の治療」と「その場の症状を改善する治療」は、別物だ。以下は私の臨床上の手順(私見)である。
フェーズ1|根本原因の治療——全員共通の「定型チェック」
これは、主訴が肩でも腰でも膝でもしびれでも、全員に同じ順で行う。毎回必ずみる土台のチェックだ。
語弊を恐れずに言えば「マニュアル治療」に近い。ただし、決めた手順どおりに押すという意味ではない。「ここは必ずみる」という部位が決まっている、という意味だ。毎回チェックし、引っかかりがあれば整える/なければ次へ進む。やらない所は必ずチェックしたうえでやらない。
基本はうつ伏せ(できない方は横向き)から。
- 下肢(足全体の軸):股関節・膝・足首のズレを同時に整え、軸を通す。左右。
- 尾骨:左右のズレ・固定化をチェックし、あれば整える。
- 臀筋群:お尻の筋(ファシア)を整える。
- 上部胸椎。
- 腰椎全体。
次に仰向けで——
- 下肢(再調整):仰向けで、足全体の軸をもう一度整える。
- 上肢(腕全体):肩・肘・手首を同時に整え、腕の軸を通す(下肢と同じ要領)。
- 首。
最後に座位で——
- 背骨全体:可動性・柔軟性・可動域をみて、動いていない所を整える。
この一連が「根本原因の治療」だ。ここに挙げた部位こそ、根本原因になり得る土台であり、関節のズレやファシアの硬結・塊があれば、それが症状の根っこになる。だから毎回チェックする。整える深さ・止めどころは第6号(硬結の解除——方向・圧・秒数、緩みで止める)のとおり。
フェーズ2|症状改善の治療——「動き」から引っかかりへ
根本原因の治療を終えてから、残っている個別の症状に対して行うのが、こちらだ。ここで初めて「動きの何を見るか」という動的な判断が入る(第3号・動診)。
肩の痛みを例に、手順を書く。
- 痛みが最も強くなる動きを定める。 「いちばん痛くなる動きはどれですか」と問う。動かしてさらに痛くなるか。本人が気づいていないことも多いので、「この動きは? この動きは?」と一緒に誘導して確定させる。
- 痛点に触れたまま、その動きを再現してもらう。 痛いところ(肩)に手を当て、いちばん痛くなる動きをしてもらう。
- 全身に生じる「引っかかり」を感じる。 動きの最中、体のどこかに硬さ・抵抗を感じる。それが引っかかりだ。痛い場所にあるとは限らない——肩の主訴でも腰にあることもある。ここで第13号の「決めつけない」構えが効く。決めてかかると、これは見つからない。
- その引っかかりを治療する。 もちろん痛点そのもの(肩のファシアの硬結)に引っかかりがあることもある。が、基本は遠くも含めて全体から探す。
腰でも同じだ。前屈・後屈・回旋などで「いちばん痛くなる動き」を定め、痛点に触れて再現し、引っかかりを探す。前屈で腰が痛い人なら、ハムストリング・膝裏・ふくらはぎに引っかかりがあることが多い——が、これも決めつけずにみる。
止めどころ——「3箇所・半分以下」を目安に
追いすぎないことが大事だ。私の目安はこうだ。
- 最大3箇所程度で止める。ゼロになれば理想だが、あんまり追いすぎない。
- 当初いちばん痛かった動きが、半分以下になるくらいまではやる。
- 炎症が強く出ているときは、引っかかりを取っても改善しにくい。無理に追わず、その日は残して経過を追い、次回に続ける。
「もっと取れそう」でも止める判断——これは第6号の「緩みで止める/過剰刺激はダメージ」と地続きだ。
内臓筋(平滑筋)という引っかかり
「全体から探す」と言うとき、内臓も例外ではない。
内臓も筋肉でできている。専門的には平滑筋だ。ということは、病気の有無とは関係なく、内臓が疲れれば内臓の筋が硬くなり、それが引っかかりとして問題を起こすことがある。
これは摩訶不思議な治療ではなく、あくまで「筋(平滑筋)の硬さ」を扱う話だ。実際、歩行時の股関節痛の引き金が、内臓(平滑筋)の硬さにあった方もいた。だから「全身を感じる」観察には、内臓も含む。
主訴別の「多い場所」を、まだ断定しない
肩・腰・膝・しびれで、どの引っかかりが多いか——ここは、データが蓄積すれば「腰ではここが多い」と傾向を言えるようになるはずだ。
だが現時点では断定しない。最初から決めて観ると見逃す(第13号)。根本原因の治療(フェーズ1)は主訴に関わらず全員同じ。違いが出るのは、フェーズ2で「どこに引っかかりが現れるか」だけだ。そしてそれは、毎回フラットに探すしかない。
まとめ
- 原因は二層——根本原因(土台の歪み)と、その積み重なりが表面化した症状原因。治療も二段。
- フェーズ1・根本原因の治療=主訴に関わらず全員共通の定型チェック(下肢の軸→尾骨→臀筋→上部胸椎→腰椎→[仰向け]下肢再→上肢→首→[座位]背骨全体)。引っかかりがあれば整え、なければ次へ。
- フェーズ2・症状改善の治療=①最も痛くなる動きを定める ②痛点に触れて再現 ③全身の引っかかりを感じる ④それを解く。痛点とは限らない。
- 止めどころ=最大3箇所・半分以下を目安。炎症が強ければ追わず残す。
- 内臓も平滑筋=引っかかりになり得る。主訴別の「多い場所」はまだ断定しない。
補足
本ノートの治療手順は、私の臨床上の組み立て(私見)であり、すべての症例・すべての方に当てはまると主張するものではない。施術部位・順番・止めどころは私のやり方を率直に書いたもので、効果を保証するものではなく、適応は施術者の判断と患者の状態による。急性外傷後・医師から安静を指示されている場合、受診の目安を超える痛み・しびれ・発熱・外傷があるときは、医療機関への相談を優先してほしい。改善の感じ方には個人差がある。同業の参考になれば幸いだ。
本ノートは治療家・専門家向けの覚え書きであり、特定疾患の診断・治療や、当院施術の効果を保証するものではありません。

大黒 充晴院長/柔道整復師(国家資格)
枚方市・大黒整骨院 院長。臨床23年・延べ5万人以上の施術。電気や温熱の機械を使わず、関節の数mmのズレとファシア(筋膜を含む結合組織)への手技を軸に施術する。