治療家・専門家向け

症状の原因は、筋肉の硬さでも・筋力でも・歪みでもない|3つの否定と『関節の数ミリ』

大黒 充晴(院長/柔道整復師・臨床23年)

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※本ノートは治療家・医療従事者向けの専門的な覚え書きです。一般の方の自己判断・施術の代替を意図したものではありません。引用文献はエビデンス確認用であり、当院の施術効果を保証するものではありません。

はじめに——「原因」とされる3つを、私は原因と見ない

治療家ノート第2号。前回はファシアのエビデンスを整理した(ファシアとは何か)。今回は逆に、エビデンスというより私の身体観を率直に書く。

患者にも同業にも、症状の原因としてよく挙げられるものが3つある。「筋肉が硬いから」「筋力が弱いから」「体が歪んでいるから」。私はこの3つを、いずれも根本原因とは見ていない

以下は臨床23年で私がたどり着いた考え方であり、科学的に証明された定説ではない。同業への覚え書きとして読んでほしい。

否定①「筋肉が硬いから症状が出る」——硬さは結果であって原因ではない

筋肉の硬さは、多くの場合枝葉=結果だと考えている。神経や関節、滑走(ファシア)の問題の"あらわれ"であって、それ自体が大本ではない。だから硬いところを緩めても、土台が残れば戻る。

ここで私がもっと強く言いたいのは、「緩めすぎ」の害だ。筋肉には2つの仕事がある。

  • 動かす機能
  • 支える=関節を安定させる機能

この2つは、私の感覚ではほぼ同等——支える側がむしろ重要なくらいだ。立っていられるのも、座り続けられるのも、筋肉が体を支えてくれているから。ところが過度なストレッチやマッサージで緩めすぎると、この安定(支持)機能が落ちる

ではなぜストレッチがこれほど流行したのか。ひとつは、トップアスリートがやっているから「一般の人にも良い」と降りてきたこと。もうひとつは、ストレッチもマッサージもその場は軽くなるから、「続ければいい」と思って続けてしまうこと。その場の軽さと、根本の改善は別物だ。

「柔らかいほど良い」という前提を、私は採らない。動かす機能と支える機能の両輪で体を見る。

否定②「筋力が弱いから症状が出る」——立って歩けるなら、治る筋力はある

筋力不足も、根本原因とは見ていない。もちろん寝たきりの方はまた別の話だが、立って歩けているなら、症状が改善するだけの筋力はすでにある、というのが私の見方だ。

そこからさらに鍛えることは、場合によっては負荷をかけすぎになりうる。「弱いから鍛える」と短絡すると、かえって体に負担を足してしまうことがある。まず見るべきは筋力の量ではなく、関節とファシアの状態だ。

否定③「体が歪んでいるから症状が出る」——歪みは、あって当たり前

これがいちばん誤解されやすい。左右差・歪みは、自然で、むしろ必要なものだと考えている。

人の体は、利き手・利き足、内臓のつき方、日々の使う頻度——どれも左右で違う。完全に均等に使っている人などいない。だから歪みはあって当然で、その場で足が揃って見えても、また戻る。

私はさらに踏み込んで、歪みは“なくてはいけない”とすら考えている。体には支点と力点がいる。支える側と動かす側だ。支点がなければ力点は作用しない。左右で役割が違えば差が出る——それが歪みの正体で、消そうとして消えるものではない。

だから、見た目の歪み(例えば足の長さが1cm違う、というような)を症状の原因として追いかけることは、私はしない

では、何を見るのか——「歪み」ではなく、関節の「1〜2mmのズレ」

私が原因として見るのは、歪みではなく関節のズレ。しかも数ミリ——1〜2mm単位のズレだ。

関節は精密機械だと思っている。わずか1〜2mmずれただけで、機能は大きく落ちる。私の実感では、3mmもずれれば、まともに立てないレベルになることもある。目で見える歪みは無関係でも、ミリ単位のズレは決定的——この差が、見立ての分かれ目だと考えている。

そしてこのズレを整えることと、ファシアの滑走(densification)を取り戻すこと——この2つが、私の施術の中身だ。

臨床への落とし込み(私見)

3つの否定をまとめると、施術の構えはこうなる。

  • 緩めすぎない:硬さは結果。支持機能を壊さない範囲で。
  • 鍛えに逃げない:立って歩けるなら筋力はある。まず関節とファシア。
  • 歪みを追わない:左右差は自然。狙うのは見た目でなく、関節の数ミリ。

そして最後に——同じ関節、同じファシアを扱っても、見立てと精度(質)で結果は変わる。「何をするか」より「どれだけ精密にできるか」。3つの否定は、その精度を一点に集めるための、引き算でもある。

補足

これらは私の臨床上の考え方であり、すべての症例・すべての方に当てはまると主張するものではない。改善の感じ方には個人差がある。同業の参考になれば幸いだ。


本ノートは治療家・専門家向けの覚え書きであり、特定疾患の診断・治療や、当院施術の効果を保証するものではありません。

大黒 充晴

大黒 充晴院長/柔道整復師(国家資格)

枚方市・大黒整骨院 院長。臨床23年・延べ5万人以上の施術。電気や温熱の機械を使わず、関節の数mmのズレとファシア(筋膜を含む結合組織)への手技を軸に施術する。

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